広島高等裁判所 昭和27年(う)648号 判決
被告人が原審相被告人柏原重治に対して譲渡した本件塩は、被告人が昭和二十六年三月四日窃取した日本専売公社所有の塩であつて、右窃盗の事実に付ては既に昭和二十六年四月四日尾道簡易裁判所に於て有罪の判決を受け、其の判決は確定して居るものであることは所論の通りである。而して窃盗犯人が其の品を処分した場合、窃盗に因つて既に侵害した同一財産法益を引続き、侵害するにとどまる限り、其の処分行為は窃盗罪に包摂されてしまうものであることは所論の通りであるが、之と異り其の処分が窃盗に因つて侵害された法益と別個の刑罰法規の対象である別異の法益を侵害する場合には、窃盗罪の他に別個の法益侵害に対する犯罪が成立するものであることは多言を要しないところである。従つて被告人が窃取した本件塩を処分するに付ても、窃盗に因つて侵害された法益が引続いて侵害されるに止らず、本件の場合の様に、国家の財政収入を確保する為に、塩専売法が日本専売公社の売渡さない塩の譲渡等を禁止して居る条規に違反して塩を譲渡した場合には、窃盗に因つて侵害された法益とは別異の法益である塩専売法の保護せんとする国家の財政収入の確保という法益を侵害するものであるから、被告人の本件譲渡行為は所論の様に窃盗罪の中に吸収せられず、窃盗罪とは別に塩専売法違反の罪が成立するものというべく、しかも右窃盗と塩専売法違反の所為とは所論の様に通常手段結果の牽連関係にあるものとはいわれないから、原審が被告人の本件塩の譲渡行為に対して塩専売法を適用して処断したのは真に相当で、所論の様に既に確定判決を経た事実に付て免訴の言渡をせずして、二重に処罰した違法があるものとはいえない。